姿勢不良と慢性症状の関係性

あなたは「姿勢が悪いですよ」と言われたことはありますか?
ご両親やご家族、あるいは学校や習い事の先生などからご指摘された方は多いと思います。

姿勢が悪いと言われると、直さなきゃなと思う一方で
「でも姿勢が悪いと一体何が悪いんだろう」と疑問に思いませんか?

このコラムは姿勢不良が慢性症状にどう影響するかを説明します。

姿勢不良と慢性症状の関係性

不良姿勢は慢性症状に物理的な影響を直接与えます。
例を挙げると、現代社会で特に多いとされる頭部が前方に偏位した姿勢では
首や肩にかかる負担が理想的な姿勢と比較すると2倍以上になると言われています。

体重70kgの男性の平均的な頭部の重さは約5.6kg(8%換算)です。
これは、肩から上の重さそのものを示します。
頭部の位置が重心線からほとんど離れていない場合首や肩にかかる負荷は実際の重さと同じ5.6kgです。

ですがもし、頭部の位置(外耳道を基準とする)が肩部の位置(肩峰を基準とする)が2.5センチ以上離れている場合、首や肩にかかる負荷は実際の頭の重さの2倍以上、11.2kg超になると言われています。

この11.2キロ超の負担は、朝起きてから夜眠るまで、つまり重力下で活動している限り発生し続けます。
そしてこの負荷は、『少なく見積もって』の計算です。

この計算式は立位でかかる負担であり、椅子に座ってのデスクワークやスマートフォン操作、車の運転など頭部位置と肩部位置がさらに離れる場合にはより大きな負担になります。

首や肩の筋肉は短く小さいものが多いため、すぐにこの負荷に耐えることができなくなります。
同時に腰から背中にかけての筋肉に張力が伝わり、首や肩にかかっていたストレスが骨盤まで波及します。

肩こり頭痛と腰痛の両方で悩まれる方がとても多いのはこのためです
この負荷の伝達は、やがて下半身にも伝達し、股関節や膝の角度に影響を与えていきます。

最初は筋肉や軟部組織に起きていた問題は、慢性化に伴って神経や関節にも悪影響を与えます。

痛みや違和感に加えて、シビレや感覚異常、筋力低下や筋量の減少が起こります。

関節の可動域が減少するのは、最初のうちは可逆的な(処置を行えば戻る)ものですが、やがてその状態から戻らなくなり、徐々に動かなくなります。

老化に伴う変形や可動性の減少はこのようにして起こると考えられています。
姿勢不良とは様々な慢性症状の入り口のようなものだと言えるでしょう。

最初のうちは大した問題を引き起こすことはありません。
しかし、姿勢不良が長期間に渡り、変形や退行を引き起こすようになるとなかなか変化しない頑固な慢性症状を生み出してしまいます。

不良姿勢でも痛くない人がいるのはなぜ?

よく誤解されることですが、不良姿勢は痛みや症状の直接要因にならない場合があります。
姿勢が悪いから必ずしも痛みや症状が出るということではないのです。

実際に、不良姿勢でありながら痛みや症状のない方も一定数いらっしゃいます。
ですがほとんどの不良姿勢の方には、可動域の制限や筋力低下、整形外科テストなどで異常が見受けられます

つまり、痛みや症状が出ていないだけで不良姿勢の方は問題点を潜在的に抱えている状態にあります。
当院は、不良姿勢は痛みや症状の直接要因ではなく、痛みや症状の直接要因を引き起こす根本的原因である、と考えています。

「痛くないから大丈夫、症状が出ていないから大丈夫」という考えをお持ちの方もいるでしょう。
ですが、人間は誰しも老化して行き、何もしなければ姿勢は加齢と共に退行していきます。

そして、今までは骨や筋肉で支えられていたものがどこかのタイミングで支えられなくなります。
当院に来院される方の多くは、体の問題が発生した時のことを
「今までは大丈夫だったのに、ある時を境に突然なった」と表現されます。

これは、偶発的に、突然に、たまたま発生したのではなく、これまで不運にも危険を知らせる痛みや症状が発生しなかっただけで不良姿勢によって長期間に渡り物理的なストレスが体にかかり続けていたものが、あるタイミングを境に、痛みや症状として一気に表出したケースがほとんどです。

痛みや症状を緩和・低下させる処置も、施術の最初期には必要です。
ですが最も大切なことは、痛みや症状の直接要因を生み出す根本原因を改善させることです。
痛みや症状だけを抑制して、根本的な部分をそのままにしておくとどこかのタイミングで椎間板や関節などの重要なパーツが損傷する恐れがあります。

器質的な問題になると、湿布や痛み止めだけでは抑制できず、外科的手術の適応になることもあります。

姿勢は健康を映す鏡

長年にわたる慢性症状に本格的に取り組む上で、姿勢は重要な要素であるとともに、心身のコンディションを把握する指標となります。

理想的な姿勢を保つためには様々な要因が複雑に影響しています。

筋肉・骨格・神経などの肉体的の問題はもちろんのこと、ストレスやメンタルなど精神的な影響や、胃や呼吸器といった内臓の問題も干渉します。
咀嚼不足、睡眠不足、栄養素や環境の問題も関節的に影響します。

全ての項目が満点である必要はありませんが、どれか一つでも大きく欠けていると姿勢はなかなか改善してゆきません。

逆に言えば、理想的な姿勢が維持できているということは、肉体や精神だけでなく内臓の働きや生活環境も、健康であるための一定水準を超えているという指標になるのです。

姿勢の回復が十分に認められない場合は、たとえ痛みや症状が早期に緩和・改善していたとしても「気を抜かないでくださいね」とアナウンスすることがあります。

それは、痛みや症状はとてもファジーな要素で、その日の体調や環境によって容易に左右されるためです。
調子がいい日は痛みや症状も軽くなりますし、調子が悪い日はその逆になります。

痛みや症状は問題を知らせるシグナルとしては優秀ですが、全体図を判断する指標としては信頼性が薄いのです。

痛みや症状の推移と比べて、理想的な姿勢が成立する条件はより複雑です。
ですので、姿勢が安定しているということは、総合的な評価が安定しているということと考えられます。

重いものを持った、寝違えた、捻挫した、などの急性症状においては痛みや自覚症状で経過を判断するのは良いと思います。

ですが、肩こり・頭痛・腰痛といった慢性症状においては、より複数の要因が影響しているため痛みや自覚症状だけで判断するのは危険です。

慢性症状は、発生からの期間が長ければ長いほど、介入すべき要素が増える傾向にあります。
このような理由から当院では、姿勢を身体コンディションを映す鏡として、検査項目に採用しております。

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