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本当に柔軟性が原因?
ターンアウトが開きが悪く、当院にお見えになるバレリーナの方達は柔軟性を高めたいという旨をヒアリングシートに書かれます。
ヒアリングを終えて、実際に関節の柔軟性を調べるテストを行うと関節の柔軟性・可動域に問題があるケースは、全くないわけではありませんが、大半の場合では柔軟性や可動域に問題がないことが多いように思います。
関節や周辺の筋肉の柔軟性に問題がないのに、なぜターンアウトが開かないのでしょうか。
筋出力低下が原因で開かないケース
関節や周辺の筋肉の柔軟性に問題がなくても筋出力に問題があれば荷重化でのターンアウト動作に問題が発生します。
筋出力とは筋肉の量や筋力の強さのことではなく運動神経が正常に機能して、力がしっかり発揮できるかどうかの指標です。
いくら筋肉質で筋力がある格闘家やスポーツ選手であっても、筋出力が低下しているとパフォーマンスが低下したり体を支えられず怪我をしてしまいます。
これをバレリーナの体でわかりやすく言い換えると、寝た状態(非荷重化)だとぺたんと足が開くのに
立っている状態(荷重化)だと思うように足が開かないという状況です。
ターンアウトはただ単に脚を外側に開く動作ではなく理想的な姿勢と重心を保ったままで、脚を外に開く動作です。
ですので、筋出力が低下しているとターンアウトポジションで体を支えることができず結果的にターンアウトを開くことができなくなってしまうのです。
オーバーストレッチに注意
筋出力の低下という考え方がない場合『ターンアウトが開かない原因は柔軟性不足にある』と考えてしまい、オーバーストレッチに走る傾向が見られます。
痛みを我慢して無理やり行うストレッチや不必要に長い時間のストレッチは筋出力の低下を引き起こします。
柔らかくしようと無理なストレッチを繰り返すと、ますます筋力が発揮できなくなる悪循環に入ってしまいます。
熱心にバレエを踊っているバレリーナでストレッチが足りていない方はごくごく一部で、大半の方はオーバーストレッチ傾向にあります。
この点をしっかりと見極めないとなかなかターンアウト問題は改善しないのでストレッチの量や強度を増やすことは慎重に検討しましょう。
筋出力低下の原因を探る
もしあなたのターンアウト問題が筋出力低下から発生している場合、なぜ筋出力低下に陥っているのかを調べる必要があります。
実際の理由や背景は人によって微細に異なりますがバレリーナが筋力低下を引き起こす最も多い例を下記に紹介します。
現象:ターンアウトが開かない
バレリーナに圧倒的に多いお悩みです。
ターンアウトが開かないという現象は様々な問題の最終的な結果です。
理由:筋出力低下によって立位でのターンアウト(ポジション)を保てないから
なぜターンアウトが開かないのか検査をしてみると関節や筋肉の柔軟性が低いケースはさほど多くありません。
その代わり、筋出力低下を起こしているバレリーナはとても多く存在しています。
筋出力低下で体を支えることができなくてターンアウトが開かなくなります。
背景:反り腰やストレートネックによって筋力低下が起こっているから
では、筋出力低下が起こる背景はどこにあるでしょうか。
オーバーワーク、過剰なストレッチ、純粋な筋肉量の不足、体重が少なすぎるなど様々な可能性が考えられますが特に強く影響するのが姿勢の問題です。
バレリーナの姿勢問題は、ストレートネックと反り腰が特に多く発生します。
クラシックバレエがそもそもつま先重心であることをはじめ、レッスン中に首を伸ばしたり、引き上げを強くかける習慣も影響していると考えられます。
また、とにかく外に開こうとする無理なターンアウトでも反り腰やストレートネックは増強されます
バレリーナは本当に姿勢がいい?
バレリーナというといかにも背筋がピンと伸び、姿勢が良いイメージがあります。しかし実際のところ、姿勢がよろしくないバレリーナの数は決して少なくありません。
本当に姿勢のいいバレリーナとは、6番ポジション(パラレル)で理想的な立位を保つことが出来て、筋出力・柔軟性共に問題がなく、運動学的に理にかなったレッスンを行っているバレリーナだけです。
バレリーナは日々のハードなレッスンによって疲弊し消耗しています。上記の条件を満たした、理想的な姿勢を保てているバレリーナは全体の中のごく一部だと感じます。
また、レッスンにおける指導者の指示もバレリーナの姿勢に良くも悪くも影響を与えます。
「顎を出さないように」「もっと首をつけて!」という指示はストレートネックを増強させるリスクが高く、「もっと股関節を開いて!」「つま先を外に向けて!」という指示は反り腰を増強させるリスクが高いと考えられます。
バレリーナたちは、このように理想的な姿勢を保つのが難しい環境下で、それでも美しい立ち姿を保持するために今度は代償という動作を入れてバランスを保とうとします。
小手先のテクニックは全体的にみると悪影響の方が大きい
代償動作とは何か一つの問題を補うために別の部分・領域を用いる行為です。
私はこれを姿勢や動作における借金のようなものだと考えます。
ストレートネックのあるバレリーナを例に挙げると、
問題:ストレートネックの影響で首を伸ばすのが難しい
それでも首を少しでも長く使わなくてはならない。
代償:背中を過剰に反らせることで首を長く見せる
この例では首の問題を表面的に解消するために、背中でバランスをとっています。この代償動作が首と背中の間だけで終わるのならば、さほど大きな問題ではないかもしれません。
しかし実際は全身のバランスを保つために、代償動作のための代償動作が発生するようになります。
問題:背中を過剰に反らせたせいでバランスが取りづらい
それでも首を長くするためにこの姿勢は崩せない。
代償:骨盤を大きく前に傾けることでアンバランスを相殺しようとする
このような代償の連鎖は延々と全身に続きます。
際限がないので割愛しますが、骨盤が前傾した後の代償は股関節の可動域と荷重位置に代償を生み出します。
きっかけのストレートネックが二転三転してターンアウトの制限を発生させ、最終的には膝の伸びにくさや鎌足にも影響してゆきます。
怪我や負傷などの例外を除き、バレエパフォーマンスの問題は往々にして全身性のものです。
このような全身性の問題に対して局所的なテクニックで対応するのは長い目で見ると問題が大きくなります。
ターンアウト問題を例に考えるのであればターンアウトを開きやすくするために様々なストレッチやトレーニングを駆使して股関節周辺だけで問題を解決しようとしても
前提にある骨盤の傾斜や背部のカーブの問題が残っている場合には必ず再発しますし、全体的・根本的な問題を残したまま局所の機能だけを高めようとしているため故障のリスクが高くなります。
向上心のあるバレリーナたちは熱心なので、メディアに取り上げられる局所的なテクニック(例えば甲が出やすくなるストレッチなど)を知れば、自発的に取り組むようになるでしょう。
その結果、足首の可動域そのものが広がっても股関節のアンバランスは残ったままなので、代償動作が強く働いて「足首のストレッチをしだしたら最近膝が痛い……」というようなことが起こってしまいます。
部分的な改善にはリスクがあります。まずは全身の状況の確認から始めましょう。
今回、多くのバレリーナが抱えるターンアウトが開かないというお悩みにフォーカスを当ててコラムを書きました。
ターンアウトが開くようになる方法を探しているバレリーナはとても多くいらっしゃいます。そしてその方達には、ターンアウト以外にも潜在的なバレエの問題が多く発生しており、それらの問題が複雑に絡み合ってターンアウトが開きにくいという現象が最終結果として発生しています。
根本原因や背景が全く変わらないのに、最終結果だけを操作しようとすると故障のリスクが上がったり、次の別の問題が発生することがあります。
まずは全身の状況を確認し、なぜターンアウトが開かないのか、そしてその根本原因は何なのかを突き止めるところからバレエパフォーマンスの改善は始まります。