肩こり・腰痛・頭痛といった慢性的なお身体の問題をテーマに整体施術を行なった場合、変化の速度には必ず個人差があります。
比較的早い段階で自覚症状が楽になる方もいれば最初のうちは、なかなか自覚症状の変化を感じにくい方もいらっしゃいます。
同じようなお悩みで、同じ施術を行なっても『自覚症状が早い段階で変化する方』と『変化に時間がかかる方』が存在するのはなぜでしょうか。
この差には、施術以外の要素が強く影響しています。
今回のコラムではこの変化のスピードの違いについて解説していきたいと思います。
目次
自覚症状の変化は根本原因の改善・解消とは全く異なる
変化のスピードについてお話しする前に、最も重要な点から説明いたします。
それは、自覚症状の変化と根本原因の改善・解消は全く異なる要素であるということです。
痛み・不快感・痺れ・コリ感などの自覚症状が緩和したり、消失することはとても喜ばしいことですが、根本的な原因が解消したわけではありません。
自覚症状は感覚神経によるサインに過ぎません。
痛みや不快感は、機械で言うならば故障を知らせるランプが点滅している状態です。
「故障部分を修理する前にランプの点滅が消えたので修理はうまくいきました」
そんなはずはありませんよね。
痛みや辛さでお悩みの方が「一日も早くこの症状をどうにかしたい!」と思われるのは心情として、全くごもっともだと思います。
そして「この症状をどうにかしたい!」と言う願望は、痛み止めの薬や注射などで叶います。
鎮痛剤は整体や手技療法よりも、はるかに強力に迅速に神経に作用します。
しかし、慢性的な肩こり・腰痛・頭痛でお悩みの方の多くはすでにこの痛み止めの薬や注射を散々試されています。
故障を知らせるランプを止めても、またすぐにそのランプは点滅することを経験されている方が大半なのです。
「早く楽になりたい、解放されたい」という気持ちは非常によくわかります。
しかし、対処療法ではなく根本原因の解消を目的とした施術の場合、自覚症状の変化スピードに捉われすぎると施術計画を見誤る可能性があります。
これは慢性的なお身体の問題に取り組む上で、理解しておかねばならないもっとも大切な部分です。
変化のスピードに関連する要素:発生からの期間
同じ腰痛・肩こり・頭痛でも、発生からの期間によって変化のスピードに大きな差が出ます。
長期間にわたって問題を起こしていた筋肉・骨格・神経は、回復に一定以上の時間がかかります。
例えば、10代の頃から慢性的な腰痛を持っている方と、ここ2~3年腰痛で悩むようになった方とでは変化のスピードに大きな差が出ます。
ここで言う発生とは、初めてその症状が出るようになった時期を指します。
特に症状が気になるえようになった増悪時期ではなく一番最初にその問題が出始めた時期が発生時期です。
変化のスピードに関する要素:器質的な問題の有無
腰痛で整形外科を受診し、レントゲンを撮影されて
「骨や関節に特に目立った異常はない」
と告知された場合は器質的(骨や関節など構造そのものの問題)な問題はなく機能的な問題だと推測されます。
整形外科で診察を受けた際に、椎間板ヘルニアやすべり症・分離症、腰椎の奇形など具体的な診断がついた場合は器質的な問題があるという判断になります。
同じ腰痛であっても、器質的な問題がある腰痛はそうでない腰痛に比べて変化のスピードが遅くなります。
これは骨格系に大きな問題があるということですので、施術計画そのものも変わってきます。
変化のスピードに関する要素:職業と運動習慣
立ち仕事やデスクワークや運転など、長時間の連続した動作があったり仕事でかなりの重量物を扱うなど職業の特性によって変化のスピードには差が発生します。
仕事に関してはある程度仕方がないですので、休憩時間等に簡単なセルフケアを導入するなどの対策が有効です。
一般的に運動は体にいい印象がありますが、程度によります。
運動習慣が少なすぎる場合は筋力低下や血流低下が起こります。逆に運動量が多すぎる場合はオーバーユースでの過負荷が生じ、どちらも変化のスピードに影響を与えます。
ある程度安定して来ればそれほど気にする要素ではありませんが施術を始めた直後などは、状況に応じて調整する必要があります。
変化のスピードに関する要素:嗜好品と食事
喫煙と飲酒は自覚症状に直接的に影響を与えます。
炎症を強めたり、発痛物質を生み出したりするだけでなく筋肉・神経・骨格の回復のスピードを低下させます。
長期的な禁酒・禁煙が必要というわけではありませんがこれらの嗜好品は自律神経系に特に強く作用するため自覚症状が強い施術の最初期などは控えていただくとより早く楽になるでしょう。
頭痛・偏頭痛や内臓機能の影響が疑われる肩こり・腰痛では食事からの影響も考慮する必要があります。
例えば、チョコレートやコーヒーは偏頭痛の発生を誘発する因子です。頭痛発作が安定するまでは摂取を控えた方が好ましいです。
消化機能が落ちている方が脂っこいものやお菓子類を継続的に摂取していると内臓機能の低下によって腰痛や肩こりが悪化する場合があります。
このように、嗜好品や食事の影響というものは特に慢性的なお悩みほど無視できない要因になります。
施術計画が軌道に乗るまででも節制していただくと施術効果の大きな後押しになります。
変化のスピードに関する要素:ストレスとメンタル
強いストレスを抱えていたり長期間メンタルコンディションが低下していると痛みや不調の直接的原因になり得ます。
ストレスやメンタルコンディションによって痛みの感受性が高くなり、脳が不具合を強く認識してしまうためです。
だからと言って全ての方に心理的アプローチが必要だとは思いません。
人間ですから誰しも気分の浮き沈みはありますし、全くストレスのない生活は現実的には難しいでしょう。
適度にガス抜きをし、上手に付き合っていくことが大切です。
逆に、施術を続けていくことによって同じ環境下でも心理的ストレスに対して耐性がついたりメンタルコンディションが安定していくことは多々あります。
精神と肉体は相互に強く影響しています。建設的に施術計画を進められることが改善への近道です。
変化のスピードに関する要素:年齢と性別
同じ腰痛や肩こりであっても年齢と性別によって変化のスピードに差が出ます。
これはもう生き物として仕方がないことですが、若ければ若いほど変化のスピードは早いです。
特に10代前半までの方の変化のスピードは目を見張るものがあります。
また、性別的な筋肉量の違いから、検査結果が近しいものであっても一般的に男性の方が変化のスピードは早くなる傾向にあります。
ただし性別差以上に職業習慣や嗜好品などの影響が加味されますので男性だからもれなく変化が早い、というわけではありません。
変化のスピードに関する要素:他の疾患
一例として、消化器系の持病をお持ちの方はそうでない方に比べると肩こりや腰痛の変化のスピードが緩やかになります。
過去に入院を伴う大きな病気や怪我をされていたり、現在も服薬を継続している場合なども変化のスピードに影響が発生する場合があります。
このように変化のスピードはその人その人の様々な条件によって大きく変わります。
痛みや辛さでお悩みの方にとっては、比較的早期に自覚症状が楽になるのがもちろん理想的ではあります。
しかし仕事がハードだったり、大きなストレスを抱えていたり、生活習慣が乱れていたりすると場合によってはスロースタートにならざるを得ないこともあります。
繰り返しになりますが、最も大切なことは自覚症状の変化と根本原因の解消は全く異なるということです。
いくら急速にに痛みや辛さが緩和して行ってもそこに検査結果が伴わなければお体の問題は遅かれ早かれ再発します。
なかなか手応えを感じられない場合であっても検査結果がしっかりと変わっていれば山道を登りつづけて突如視界が開けるように、一気に自覚症状が好転するケースが多々あります。
このような変化の速度に影響する要因を一つでも多く把握しておくことが予定通りに施術計画を進める上でとても重要だと考えます。